パルクールとは

パルクールの概要

パルクールとは、走る・跳ぶ・登るといった移動に重点を置く動作を通じて、心身を鍛えるスポーツ(運動方法)です。ただし、パルクールが包括しているフィールドは非常に幅広く、スポーツ(運動方法)という言葉だけで表現できるものではありません。 現在、パルクールは日本を含め世界中で様々なスタイルで実践されており、移動術、トレーニングメソッド、パフォーマンス、アート、ライフスタイルや哲学など パルクールの捉え方は多岐に渡っています。

 

パルクールの実践者の多くは、パルクールにおける移動の動作の練習を通じて己の機能性、体力、バランス、空間認識力、敏捷性、コーディネーション能力、正確さ、コントロール、創造的視点などを鍛えていきます。パルクールでは、このような身体および精神のトレーニングを通じて己の身体的、精神的な限界を理解した上で、それらの限界を克服する方法を模索していきます。また、パルクールの実践を続けていくことで、実践者はどのような環境においても自由に、かつ機能的に動くことのできる心身を得ることができます。

 

パルクールの幅広い実践者

先述の通り、パルクールとは、己の限界を理解した上で、それらの限界を克服するという性質が非常に強いスポーツ(運動方法)です。そのため、現在パルクールは世界各国で運動能力や老若男女を問わず広く実践されており、幼児向けの運動教育や小学校を始めとする教育機関での体育プログラム、シニア向けフィットネスなど、幅広い年齢層の方が実践できるスポーツとなっています。

 

パルクールの実践場所

パルクールは主に「スポット」と呼ばれる周囲の環境を利用して練習を行います。パルクールはどのような環境でも自由に、かつ機能的に動けるようになることを前提としているため、スポットに条件はなく、街中・公園・森・岩場など、いかなる環境もスポットになります。また近年ではパルクールパークやパルクールジムと呼ばれるパルクール専用の練習場所の整備も世界各地で進んでいます。日本国内では、関連法規や条例を守りつつ、多くの実践者が各地の公園、運動施設などのスポットや専用練習場所でパルクールを行なっています。なお、近年では多くのテレビCMや映画、ドラマなどで、パルクールの実践者によるビルの屋上から屋上へ軽やかに飛び移る行為(ルーフトッピング)の映像が利用されておりますが、こういった死亡事故の危険性のある場所での実践はあくまで特別な撮影許可を得た上での、パルクールで鍛えた心身を使ったパフォーマンス的行為であり、日常的なパルクールの実践は安全上および法律上の観点からルーフトッピングを推奨するものではありません。

 

パルクールの精神と危険性に対する考え方

パルクールでは、以下を始めとする考え方や精神がその歴史的背景から非常に重要とされています。パルクールは決して移動の動作の上達のみを追求するアクションスポーツ・エクストリームスポーツではなく、危険を回避し安全に実践を行うにあたっての精神の鍛錬、そして己の限界を知ることによるリスクコントロールが重要とされています。

  • Be strong to be useful(実用的、機能的な強さを持つ心身を手に入れること)
  • No competition(他者との競争を目的に上達を目指すのではなく、あくまで自己の鍛錬、自己の限界の克服を目指すこと)
  • Overcome your fear(己の中にある恐怖心と向き合い、克服すること)
  • We start together, we finish together(仲間を大切にし、全員で最初から最後までトレーニングを行うこと)

 

競技(スポーツパルクール)

パルクールでは本質的に、他者と競う概念はありません。しかし、パルクールの人口増加とともに、パルクールの一部を切り取る形で、特定のルールの中で勝敗を決める新競技が考えられるようになりました。「スポーツパルクール」とは、パルクールの裾野を拡大していくために、パルクールの本来の性質を守りつつ、パルクールとは異なる視点で、新たにパルクールを楽しめるように設計された競技です。現在スポーツパルクールには、主に以下の4種目があり、欧米諸国を中心に大会、選手権などが開催されています。なお、スポーツパルクールの目的はあくまで特定のルールの中でパルクールを楽しむこと、パルクールの裾野を拡大することであり、他者との競争を目的とせず自己の限界の克服を目指すというパルクールの本質的精神は変わっておりません。そのような背景のもと、日本パルクール協会では、パルクールの本質的精神の普及と理解促進、およびスポーツパルクールの大会および体験イベントの運営を行なっています。

  • スピードラン(スタート地点からゴール地点までに設置された障害物を最速で超え、タイムを競う競技)
  • フリースタイル(会場に設置された障害物を利用して自由演技を行い、その得点を競う競技)
  • スキル(パルクールにおける1つ1つの基本動作の飛距離、速さ、高さなどを競う競技)
  • タグ(障害物が複数設置された規定のエリア内において、一方がもう一方に触れるまでの時間を競う競技)

 

パルクールの歴史と名称

パルクールの起源は、ジョルジュ・エベルという元フランス海軍将校の体育教官が作り、第1次世界大戦、第2次世界大戦中のフランスの軍隊トレーニングのスタンダードであった「methode naturelle」というトレーニングメソッドにまで遡ります。「methode naturelle」は、歩く、走る、跳ぶ、這う、登る、バランスをとる、投げる、持ち上げる、自衛する、泳ぐといった10種の基礎的運動群から成り立るトレーニングでしたが、この「methode naturelle」をベースに誕生したのが、「parcours du combattant」という障害物コース形式の軍事訓練です。

 

1939年、現在のベトナムであるフランス領インドシナにレイモンド・ベルが生まれました。1946年に始まった第一次インドシナ戦争で父を失ったレイモンド・ベルは、わずか7歳にしてベトナム中南部の都市ダラットの戦争孤児院で生活を始めましたが、戦争の犠牲者にならないために、少年レイモンド・ベルは、深夜誰も起きていない時間に起き、誰よりも長く、厳しく、ランニングや木登りといったトレーニングを続け、秘密裏に軍隊に設置された障害物コースでのトレーニングを続けました。その後、第1次インドシナ戦争が終わった1954年、レイモンドはフランスに戻り、パリで軍隊教育を受け続け、19歳でフランス軍の管理下におかれている消防士、サープル・ポンピエ・ドゥ・パリとしての職に就きます。

 

時代は過ぎ1973年、フランスの小さな港町フェカンにてレイモンド・ベルの息子であるダヴィッド・ベルが生まれます。1984年にパリ郊外の街Lissesに引っ越すも、当時経験していた陸上競技や体操競技では満足できなかったダヴィッド・ベルは、父レイモンド・ベルから「Le parcours」を教わりました。レイモンド・ベルは彼が過去に培った様々なトレーニングメソッドを全て包括する言葉として、「Le parcours」を用いていました。レイモンドの言う「Le parcours」を全て学んだダヴィッドは、その後、Lissesの町にてトレーニングを続けました。

 

Lissesでトレーニングを実践したのは、ダヴィッド・ベルだけではありません。ダヴィッド・ベルはセバスチャン・フォーカンなどの友人とともにトレーニングを続け、9人のメンバー(ダヴィッド・ベル、ヤン・ヌートラ、チャウ・ベル、ロラン・ピエモンテジ、セバスチャン・フォーカン、ギラン・ヌバ・ボイエク、チャルル・ペリエール、マリック・ディウフ、ウィリアムズ・ベル)から成るグループを結成しました。この9人のグループは、1997年よりYamakasiを名乗り、パリでの様々なパフォーマンスショーに出演し、その結果、パルクールのアクション的な側面がエンターテイメント業界の中で注目され始めました。当時、Yamakasiらは自分たちのやっているトレーニングを「L’art du déplacement(略称ADD・英訳The art of movement・邦訳無し)」と称していましたが、その定義に関する不和や方向性などを原因にダヴィッド・ベルとセバスチャン・フォーカンはYamakasiを去り、1998年に新たに「Parkour」という単語が新たに誕生しました。また、2003年にはイギリスのテレビ局Channnel 4で放送されたセバスチャン・フォーカン出演のパルクールドキュメンタリー作品「Jump London」の中で、英語圏の視聴者にこの新しい運動方法の概念を伝えるために「Freerunning」という単語が新たに誕生しました。

 

その後、2001年に公開されたリュック・ベッソン監督の映画「Yamakasi」、2003年のChannel 4のドキュメンタリー作品「Jump London」、2004年公開のダヴィッド・ベル主演の映画「Banlieue 13(邦題:アルティメット)」などを通じパルクールは日本を始めとする世界中で注目を浴び、同時に世界各国でその実践者が増え、世界中で実践されるようになりました。

 

しかしながら、映像作品に見られるパルクールのダイナミックな動きを真似した未熟な実践者による高所からの落下事故などが相次いだことから、現在では欧米諸国を中心にパルクールを教える指導団体の設立や安全な練習場の整備が進み、気軽にパルクールを始められる環境整備が各地域で進んでいます。

 

パルクールの独立性と他競技との関係

パルクールは先述の通り、その誕生の歴史的背景に軍隊トレーニング「methode naturelle」や「parcours du combattant」の影響を強く受けており、歩く・走る・跳ぶ・這う・登る・バランスをとる、をいった移動に関する基本動作や、鉄棒から鉄棒へ飛び移る動作、壁から壁に飛び移る動作、高所から飛び降り受け身を取るといったダイナミックな動作を繰り返し行います。これらの動作は、同様の動きが陸上競技やスポーツクライミング、体操、ダンスなどの他競技でも見られますが、多くの動きはパルクール実践者達が長年の実践の中でパルクールのために発見・開発した動きであり、1つ1つの動きは効率的な移動や安全な実践、新しい身体の使い方に焦点が当てられたパルクール独自の発想が加えられた独特の動きとなっています。すなわち、パルクールは独立した歴史を持つ独立したスポーツ(運動方法)であり、決して他のスポーツの組み合わせや一種目ではありません。

 

2017年、国際体操連盟(FIG)は突如としてパルクールの国際連盟となりワールドカップを開催すること、パルクールを体操の管轄種目とすること、また一度も公式な世界大会が開催されたことのないパルクールをオリンピック体操競技における1種別として提案することを各国のパルクール協会への事前の相談なく宣言しましたが、パルクールは独立したスポーツ(運動方法)ですので、体操競技とは一切関係がありません。この事案を受け、英国パルクール統括団体Parkour UKを筆頭に各国パルクール協会、パルクール団体および国際パルクール組織「Parkour Earth」より、国際体操連盟の行動を「不正であり侵害である」とする抗議の公開書簡が数多く提出されました。パルクールと体操は、お互いに練習施設を共有しうるスポーツ同士ではありますが、日本パルクール協会はParkour UKおよび国際パルクール組織「Parkour Earth」の考えに賛同し、「パルクールは体操ではない」「パルクールは独立したスポーツである」と考えています。